ゆ〜れん(仮)
病室は白い。潔癖なまでに。
普通の人間ならば清潔さを連想するはずの色に、「浮いている」とだけ思った。
大部屋にも関わらず入院していたのが一人きりだったからか。
想いは、訪れる人間は医者や看護婦を見る度に再生される。
どうしようもなく、浮いている・・・・・・自分が。
この寝巻きが白い色だったならば、思う事もなかったか――?
違う。たとえ全身包帯で巻かれて皮膚の一片たりとも露出していなくても、変わらない。
世界が違う。その身に纏う空気ですらも。
彼らはこの潔癖な世界で息をしているから、彼らの生活はこの世界に在るから。
自分は、いつかここを出て行かなければならないのに、ここにいるから。
長い間。
いつかって、いつだ?
と、思うくらいの長い間。
孤絶している錯覚に蝕まれていく。
自我が強すぎるのだろうか。ならば考えなければいい。たとえいつ退院できるか分からないとしても。
そうすれば、たとえ錯覚が事実だとしても意味をないがしろにできる。
ではどうすればいいだろうかと、瞼を押しつぶさんばかりに目を閉じた。
眠ってしまえ。そうすれば何も考えなくていい。何も目にしなければこの錯覚もいつか消える。
また、いつか――。
いつかきっとよくなるから――。
いつかきっと誰かお見舞いにきてくれるよ――。
――やめてくれ!!
声は音にすらならなかった。かちかちと、歯を噛み鳴らして『独り』を否定しようとする。
それでも思考を占めるモノは断絶できない。目を閉じれば余計思考は活動を活発にするばかりだった。
そして意味のない思考はノイズのように、凝り固まって脳を直撃する。痛みを伴わない傷が穿たれていることに、誰も気づかず、じわじわと崩れていく自分。
たとえようもなく、独りだった。
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